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好文学園女子高等学校

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校長メッセージblog 好文木

2017.08.17

21世紀のルネッサンス

111 夏休み、『井深大~人間の幸福を求めた創造と挑戦~』(一條和生著 PHP研究所)を読みました。井深氏は盛田昭夫氏とともに「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を設立趣旨とし、戦後間もない1946年、東京通信工業を創業しました。この会社が後に世界のソニーとなります。井深氏は優れた技術者であり、日本初のテープレコーダー、トランジスターラジオ、トリニトロン・カラーテレビそしてウォークマンを世に送りました。この本は井深氏の評伝であり、井深氏の正に深く大きな人間性に触れることができました。
 「メカナイズされたり、ハイテク化すればするほど、人間と人間の関係が非常に重要になり、人を受け入れ受け入れられ、人と本当に上手くやっていける人間が必要になってくるんですね。21世紀になったら人間とか愛情とかいうものがますます重要なファクターになってくると思うので、自分に磨きをかけ、人との関係を大切にするよう心がけていく必要があろうと思いますね」 これは井深氏がソニー創立43周年の1989年5月の社内報インタビューに答えての一節です。
 また、翌1990年同時期の社内報では次のように述べています。「物理も科学も全てそういうものは道具と考えると、必要なときに勉強しても遅くないんだけれども、哲学とか信念とかいったものはなかなかおいそれとは育たない。だから、そういう勉強をし、興味を持つような人を集めていかなければならないのではないかと思うんですよ」
 1989年~1990年といえば、バブル絶頂期でした。この後、バブルは弾け20年に亘る長期デフレの時代に突入しました。世界もアメリカ一極集中から、多極化の時代を迎え、政治も経済もますます不確実性を高めています。一方、ITの進歩は目覚ましく、AI(人工知能)は単純作業のみならず、熟練を要する仕事も取って代わろうとしており、人を活かす仕事とは何かが問われています。SNSを通してのトラブルも頻発し、ギスギスした人間関係が目立ちます。相手の立場に立ちじっくり立ち止まって考えてから発言するという姿勢が益々求められている現在、30年前の井深氏の言葉は心に響きます。
 グローバル人材育成を掲げ教育改革が進められています。暗記と詰め込み型学習だけではなく論理的思考、問題解決型学習が必要なことは言うまでもありません。しかし、そのなかで、国公立大学における人文科学系学部の廃止や再整備が打ち出され、文系軽視との批判が出ました。明治以来、国家に有為な役立つ人材を育てることが国立大学の使命であると考えられてきました。今回の教育改革においても、個人の幸福の追求というより経済成長のためにという側面が強く感じられます。
 一方、西洋の大学はボローニャ、オックスブリッジ、パリ等々、12~13世紀までに設立され、国家に有為な人材を育てるというより、それら大学で学び研究した人々が国家の仕組みを変えてきたという歴史があります。日本は明治維新後に国家が大学を造ったわけですが、西洋は大学が国家を造ってきたといっても良いかもしれません。西洋にはギリシャ、ローマ以来のリベラルアーツ、教養教育が重要であるという共通認識がありますが、日本では哲学や文学は実学ではなくあまり役に立たないモノと考える傾向が強くなっているのではないでしょうか。
 評伝の中で、戦後すぐの東久邇宮内閣で文部大臣を務めた前田多門氏が1945年9月9日全国放送した「青年学徒に告ぐ」の一節も紹介されています。曰く「日本の往く道はただ一つ。武力を持たぬ代わりに、文化で行く。教養で行く。ほんとうの道義日本として世界の進運に寄与する。(中略)自然科学も大切であるが、同時に、世界現在の悩みとして、人文科学の進歩が、自然科学の歩みに遅れていて、跛行状態を呈している点に於いても,学徒の向学心を喚起したい。君子は器ならずということがあるが、明治以来の教育の弊風は、その反対に、人間を、ただ物の役に立つ器のみに教育して、却って、明治の初年までは存していた精神教育の根源を没却したのであり、この弊害を是正せねばならない」この文章からは無謀な戦争に突入した反省と新日本建設への決意が見て取れますが、現在においても警鐘として受け取ることができる内容だと思います。
 明治以来、我が国は西洋先進国に追い付け追い越せで工業立国としての道を歩んできました。自然科学分野に力点が置かれたのは当然と言えます。しかし、人文科学と自然科学は車の両輪であり、そのバランスが崩れると社会に綻びが生じます。現在の日本を見渡すと、長期にわたるデフレとゼロ成長そして少子高齢化に直面し、再び経済成長をとの思いから、「役に立つ人材」、「役に立つ学問」ということに傾斜し過ぎではないかと危惧いたします。百歩譲って「役に立つ」ことを是認したとしても、変化が激しい時代、「役に立つ」と思われたものはすぐに役に立たなくなります。井深氏の人生を辿るとき、「大事なことは、技術そのものではなく、技術を支える哲学だ」という思いを強く致しました。 AIが全盛となるであろう21世紀、再びルネッサンスの機運が高まるのではないかと思います。

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